受取の年と順番で税額が100万円前後変わる例
公開: 2026-04-20 / 最終更新: 2026-10-02
掛金の上限額は、2026年12月1日からの値で書いています。それまでの上限は、自営業・フリーランスが月68,000円(国民年金基金等と合算)、会社員・公務員が月20,000〜23,000円(勤務先の企業年金の有無による)、専業主婦(夫)が月23,000円です。
退職金とiDeCoの両方を受け取る人は、受取年をどう組むかで手取りが100万円前後変わる場面があります。記事を書く前、私は「数百万円単位で変わる」という説明をよく見かけて、本当だろうかと疑っていました。実際に税法のルールに当てはめて計算してみると、差が出るパターンと出ないパターンがはっきり分かれます。
鍵になるのは、退職所得控除の重複排除に関する2つの期間ルール。一般に「10年ルール」「19年ルール」と呼ばれるもので、受け取る順番によって必要な間隔が違うのが厄介な構造です(「10年ルール」は令和7年度税制改正で「5年ルール」から延長されたもの。後述)。
この記事では、ルールの非対称性をまず整理してから、「現実的に手取りが変わるのはどのパターンか」を実例で見ていきます。
退職所得控除は、勤続年数(iDeCoは加入年数)に応じて段階的に増える控除枠です。同年に2つの退職所得を受け取ると、勤続期間の重複分が控除から差し引かれて、合算した1回の退職所得控除になる仕組み。
年をずらせば独立した控除になる、というのが税法の建付けです。ただし、必要な間隔が順番で違います。
iDeCo を先に受け取り、退職金を後に受け取る場合 → 10年ルール
退職金を受け取る年の前年以前9年内にiDeCoの一時金を受け取っていると、退職金側の控除から、勤続期間が重なる年数分の控除額が差し引かれます。つまり、iDeCo受取から退職金受取まで10年以上あければ、退職金側で控除をフル計算できます。
※ この期間は令和7年度税制改正で「前年以前4年内(通称5年ルール)」から「前年以前9年内(通称10年ルール)」に延長されました。2026年1月1日以後にiDeCo(DC)の一時金を受け取る場合に適用されます。改正前の感覚(5年あければ独立)で計算すると、控除を過大に見積もるおそれがあります。
退職金を先に受け取り、iDeCo を後に受け取る場合 → 19年ルール
退職金の受取からiDeCoの一時金受取までが19年以内なら、iDeCo側の控除から、重なる年数分の控除額が差し引かれます。20年以上あければ、iDeCo側で控除をフル計算できる。
※ 19年ルールは2022年改正で「14年以内 → 19年以内」に延長されました。退職金を先に受け取って、iDeCoで控除独立を狙う節税スキームを抑える狙いと言われています。
ここで気をつけたいのが、「退職金 → iDeCo」で19年あけるのは制度上ほぼ不可能という点。60歳で退職金を受け取った後にiDeCoを20年あけて受け取ろうとすると、80歳になります。iDeCoの受取上限は75歳なので、最大15年しかあけられません。「退職金が先」のパターンでは、19年ルールの窓に必ず入る、というのが現実です。なお、iDeCoは60〜75歳の範囲で受取開始年齢を自分で選べます。年齢ごとの手取りの違いは iDeCoの受取開始年齢は60〜75歳のどれがいい? で実測しています。
退職所得控除そのものの計算式と、勤続年数ごとの控除額(800 万、1,500 万、2,690 万…)の具体は 退職所得控除の計算例 に整理しました。この記事を読む前に控除の感覚を掴んでおきたければ、先にそちらを見てもらうと、以下の数字が腑に落ちやすくなります。
数字を入れて見ます。条件は次の通り。
退職金受取(60歳)から iDeCo 受取(69歳)まで9年。19年ルールの窓内なので、iDeCo側の控除から、重なる年数分の控除額が差し引かれます。受取年が違うので、税金は退職金と iDeCo で別々に計算します。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 退職金の控除(60歳) | 800万 + 70万 × (38−20) = 2,060万円(退職金2,000万円は控除内で税0円) |
| 差し引く重複年数 | 退職金2,000万円が控除2,060万円に満たないため、退職金の勤続を (2,000−800)÷70+20 = 37.1 → 37年(22〜59歳)とみなす → iDeCo加入(40〜69歳)との重複は19年 |
| iDeCoの控除(69歳) | 29年分 1,430万 − 重複19年分 760万 = 670万円 |
| 課税対象(控除後 × 1/2) | (1,500 − 670) × 1/2 = 415万円 |
| 税額(所得税20%帯 + 住民税10%) | 約83万円 |
※ 控除は「29年分の控除額 − 重複19年分の控除額」で出します。年数を先に引いて「10年分の控除」とするのではありません(国税庁 No.2732)。iDeCo 残高は 60→69歳の9年で運用が継続するので、実際は 1,500万 → 約 1,957万に増えます(年利3%想定)。上記は単純化のため残高固定で示しました。本シミュレーターは運用継続分も含めて計算します。
iDeCo を60歳で一時金として受け取り、退職金を70歳以降に受け取ると、10年ルールの窓外。退職所得控除がそれぞれ独立計算になります。想定としては「定年後に再雇用 or 別企業で10年以上勤務し、退職金を後ろに繰り延べる」というかなり特殊なパターン(改正前は5年で足りましたが、令和7改正で10年必要になりハードルが上がりました)。60歳で受け取るので、iDeCo の加入はその時点で終わります(40〜60歳の20年)。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| iDeCoの控除(60歳・加入20年) | 40万 × 20 = 800万円 |
| iDeCoの課税対象 | (1,500 − 800) × 1/2 = 350万円 → 税額 約63万円 |
| 退職金の控除(70歳以降) | 800万 + 70万 × (38−20) = 2,060万円 → 退職金2,000万円は控除内で税0円 |
| 税額の合計 | 約63万円 |
パターンA の税額 約83万円に対して、パターンB は約63万円。差は約20万円です(残高はどちらも1,500万円で固定)。「数百万円単位で変わる」という説明とは、桁がひとつ違います。
ただし、パターンB を実行するには iDeCo を先に60歳一時金で受け取り、その後10年以上を空けて退職金を受け取れる職務環境(再雇用後の二段階退職、別企業への転籍など)が必要です。多くの会社員にはハードルが高く、現実にはパターンA がデフォルトになります。
「同年受取」と「数年ずらし」の比較も見ておきます。退職金は60歳で固定。iDeCo の受取年だけ動かします。iDeCo の加入は受取の時点(最長69歳)まで、残高は60歳時点の1,500万円から運用益だけで増える単純化です(60歳以降の拠出分は含めていません)。
| iDeCo 受取年 | 退職金からの差 | 適用ルール | 退職所得控除(iDeCo+退職金) | iDeCo 残高(年利3%) | 税額(本シミュレーター) |
|---|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 同年 | 通算(勤続38年) | 2,060万円 | 1,500万円 | 約176万円 |
| 65歳 | 5年差 | 19年ルール窓内 | 390万円+2,060万円 | 約1,739万円 | 約162万円 |
| 69歳 | 9年差 | 19年ルール窓内 | 670万円+2,060万円 | 約1,957万円 | 約152万円 |
| 75歳 | 15年差 | 19年ルール窓内(限界) | 670万円+2,060万円 | 約2,337万円 | 約214万円 |
退職金が先のケースでは、ずらしても重なる年数分の控除は戻りません(19年ルールの窓内は最大15年)。iDeCo の控除が増えるのは加入年数が伸びる分だけで、同時に残高も増えるので、税額は単純には下がりません。この表では69歳受取の税額がいちばん小さく(約152万円)、75歳まで延ばすと残高が増えるぶん約214万円に増えます。
大きく差がつくのは、受取の順番まで変えた場合です。60歳の同年受取(約176万円)と、パターンBのように iDeCo を先に受け取って退職金を10年以上あける形(約63万円)を比べると、iDeCo 残高が同じ1,500万円でも税額の差は約113万円になります。
「年金として受け取る」選択肢も合わせて検討すると、出口戦略の幅が広がります。本シミュレーターは一時金・年金・併用の自動最適化に対応しているので、自分の条件で計算してみるのが早道です。
ここまでの「パターンA 約83万円・パターンB 約63万円」という数字は、残高を1,500万円で固定した教科書的な概算です。実際には iDeCo 残高は受取まで運用が続き、年収によって拠出期の節税額も変わります。本サイトのシミュレーターで運用継続込みの実測値を出してみました。
私自身は会社員として iDeCo を 5 年運用していて、まだ受取期は先ですが、「同じ残高でも受取年がずれるだけで税額が変わる」という感覚を、シミュレーターを書く過程で何度も目にしてきました(運営者の iDeCo 運用体験談 に経緯を書きました)。残高固定の手計算と、運用継続込みの実測値で、どれくらい数字が動くか見てください。
条件は記事冒頭と同じ。退職金 2,000万円、iDeCo 60歳時点 1,500万円、年利3%で運用継続、会社員(年収700万円帯)。
| パターン | iDeCo受取時残高 | 合計受取額 | 税額(実測) |
|---|---|---|---|
| A: 60歳退職金 + 69歳iDeCo(19年ルール窓内) | 1,957万円 | 3,957万円 | 約152万円 |
| B: 60歳iDeCo + 70歳退職金(独立控除) | 1,500万円 | 3,500万円 | 約63万円 |
差は約89万円。残高固定の概算(差約20万円)より大きいのは、パターンAでは運用継続分(60→69歳で +457万円)が課税対象に乗り、税額が概算の約83万円から約152万円に増えるためです。つまりこの差の大半は、受取の順番ではなく残高の違いから来ています。「ずらしのメリット」を計算する時は、運用継続による残高増まで織り込んだほうが現実に近いです。
※ シミュレーターは退職所得控除の重複期間調整、合算課税、復興特別所得税までを反映した精密計算。記事冒頭の手計算(約83万円 vs 約63万円)は残高を固定した単純化モデルとして読んでください。
退職金もiDeCoも一時金で受け取る場合、税金は分離課税。したがって退職時の税額は年収に左右されません(年収500万でも1,000万でも、上の表と同じく約152万円・約63万円)。年収帯による差は、拠出期の所得控除(毎年の節税)で出てきます。
40歳から月23,000円・年利3%・29年積立(iDeCo 69歳残高 約1,274万円)で計算した、拠出期累計の節税です:
| 年収 | 所得税率の目安 | 29年累計拠出 | 29年累計節税(実測) |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 5% | 800万円 | 約121万円 |
| 700万円 | 20% | 800万円 | 約220万円 |
| 1,000万円 | 20% | 800万円 | 約243万円 |
年収500万 → 1,000万 で節税額が約120万円増えます。受取時の税額は同じでも、拠出期の節税で100万円を超える差が出ることは知っておく価値があります。年収帯別の節税額の詳細は 年収別 iDeCoの節税額早見表 でも整理しています。
※ 月23,000円・29年積立・年利3% のケースでは iDeCo 69歳残高は約1,274万円。記事冒頭の「1,500万円」は教科書的な仮定値で、実際にこの残高に到達するには月46,000円程度の積立が必要です(会社員上限62,000円内で実現可能)。
この記事は MoneyTools Lab(iDeCo 最適受取シミュレーター運営)が執筆・公開しています。運営者は税理士・ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士等の有資格者ではありません。本記事の内容は参考情報としてお読みいただき、具体的な税務判断・資産運用のご相談は専門家へお問い合わせください。
運営者自身も iDeCo の加入者です。運用歴・計算の検証方法・AI の利用範囲は 運営者について に書いています。
本記事の計算・解説は、以下の一次情報(公的機関の公式ページ)に基づいています。
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